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他の一部の種がいなくなるか減じることになり、指数は明らかに低下する。従って生物多様性は低下し安定性が損なわれる状況であるといえよう。上記のような状況から見て、海域浄化工法の評価方法についても「水質基準」比較や「快適性」、「経済性」に加えて、生物に直接関わる「生物指標」が必要であろう。前節で述べたような生物多様性についての評価を考慮すべきであると思われる、。
「生態系」から見た多様性についてはすでに鳥とか魚の数量の増減を捉えて、自然の回復または消滅のあかしとしている報告や研究が見られる。これを生態系から見た多様性の観点から、対象空間の広さ、経年変化等を考慮に入れて指標化することが考えられる。
「生物種」から見た多様性については多様性指数の対象生物種および群を増して研究を深め、より解り易い指標にすることが望まれる。
「遺伝子」から見た多様性については、種の存続、生態系の中での種間のバランス等との関連において、早急に研究が進められることを願うが、直ちに生物多様性指標として取り込むことは難しいのではないかと思われる。
なお、これらの生物指標については調査、研究例が少なく、かつ工法および施設設備の実施例の方も数は十分にない。今後の計画的な努力が必要とされる。調査、研究に当たっては海域空間の連続性、生物活動の季節性と年次サイクル、食物連鎖における個体数の増減などにも配慮すべきであろう。また水質基準である物理的指標との関連もつけておく必要がある。
一般的に計って自然環境に関わる評価問題については、生物の状況を細かく知る必要があるため長期間を要する。かつ生物と人間との関わりとして捉える必要があるため、解明が一層難しい。生物と人間との関わりの面から評価する場合、評価主体である人間から見た自然との関わりを、地域住民の経験的知見および感性から捉えていくことも考慮されるべきであろう。このための方法論も用意されなければならない。
5. おわりに
自然環境に関わる回復と評価の問題は、場所が自然公園であろうと都市域であろうと、大気や水、緑、気温の変化等の中で生物と共生する人間自身の問題であろう。人間活動が色々な形で自然環境に影響し、そこに住む生物に影響し、地域の環境の状態を変え、更に地球全体の環境にも影響を与えている。そしてこれらの影響は再度人間の生活環境や活動へと回帰して来ている。
人間および生物の環境を生態系として捉え解明しようとするには、科学は多岐に亘り、技術には長期間を要し、かつ多くの費用が掛かる。しかしこれだけ自然環境破壊が進んでいる現在、やらなければならないであろう。研究効率を上げるには学、官、民による協力や共同研究が必要とされる。国際的な研究成果の情報交換も望まれる。他方、一般市民や地域住民のまちづくりの一環として、草の根からの盛上がりを期待したいものである。海域環境整備事業の実施構造をFig-6に示す。11)
参考文献
1)運輸省港湾局編環境と共生する港湾 1994.10
2)(社)日本海洋開発建設協会 これからの海洋環境づくり 1995.7
3),5)大音宗昭 海域環境整備への対応の構造分析について 平成8年度土木学会関西文部年次学術講演概要 1995.5
4)環境庁編 多様な生物との共生を目指して 1996.5
6)藤井宏一 前田修 生態学 放送大学教材 1994.3
7)福嶋悟 生物指標による水質汚濁の評価方法(1)多様性指数 横浜市公害研究所報告第2号 1978
8)田中裕作ほか 尼崎港港奥部海域の水質・生物に関する現状調査 平成8年度土木学会関西支部年次学術講演概要 1996.5
9)運輸省 航空審議会答申(第一次答申) 1974,8
10)大音宗昭 閉鎖性海域の水質浄化工法の分類・評価について 土木学会第50回年次学術講演会講演概要集第?部 1995.9
11)大音宗昭 海域環境整備への対応の構造分析について 土木学会第13回建設マネジメント問題に関する研究発表・討論会講演集 1995.12

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Fig-6 Structured analysis for planning and executing of seawater purification works

 

 

 

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